ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは? 患者の意向を尊重した意思決定のための相談員研修会

医療者の皆さん,突然ですが質問です.

終末期医療において,以下の2つの質問に対して,正しい・誤っている,どちらかをお答えください.

 

1. 胃瘻からの経腸栄養を中止すると殺人罪に問われる.

2. 治る見込みがない人工呼吸器管理中の患者さんの人工呼吸器を,家族と相談し外した.

 

がん診療に携わっていると,しばしば延命治療の差し控え・中止を考えなければならない場面に遭遇します.倫理的問題,法的問題が絡むうえ,正確な情報共有がなされていないため,結果的に患者さんや家族の意思が十分に反映された方法が選択されていないし,また医療者側もジレンマの中でストレスを抱えている.

 

今回参加した「患者の意向を尊重した意思決定のための相談員研修会」(ACP研修会と呼びます)では,

  • 患者の意思を尊重した人生の最終段階における医療を実現するため,
  • 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に則って,患者の人生の最終段階における医療などに関する相談に乗り,必要に応じて関係者の調整を行う相談員を含む医療・ケアチームの育成や住民向けの普及啓発を行う

についての研修を受け,どのような方法で患者の意思決定を支援し方針を決定していくのかについて学んできました.

 

 

研修内容

事前学習

まず事前にWeb上で,1時間弱の動画を2本みます.いわゆるe-learningと呼ばれるものです.

「臨床における倫理の基礎」

「意思決定に関連する法的な知識」

(こちらの動画は公開できなさそう)

 

そして,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にも目を通しておきます.

ガイドラインは厚労省が公表しているのでリンクを貼っておきます.

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf

 

ガイドラインをご覧になられていかがでしょうか?

各種がん治療ガイドラインのような形式を想像していると,拍子抜けするようなガイドラインだと思われた方もいるのでは?

この領域が,ああした方が良い,これは勧められないなどガイドラインで事細かく方針を決められる物ではないということを表しています.

 

事前学習でしかっかりと基礎知識を習得したうえで(少し動画をスキップした部分もありますが・・・),集合研修に参加しました.

 

集合研修

2018年10月21日 9:00~17:40 堺市立総合医療センター

参加者:大阪南医療センターからは,看護師の森さん,山岡さん,MSWの小澤さん,そして私の4人が参加しました.

会場では他施設からの参加者とともに,6名で1チームとなりグループワークを行いました.

 

Tさんという高齢の男性が,変形性膝関節症の手術を受けるかどうか悩んでいる.最終的に手術を受けたが,その後徐々に体力が低下していき誤嚥性肺炎を繰り返すようになる.さらに状態は悪化し食事が食べられなくなり・・・.最終的に家族が経腸栄養の中止を申し出てきたが,医療チームとしてはどのように評価し,どのような方針を提示するのか.

 

手術を受けるかどうかの相談や,徐々に弱りつつあるTさんへ将来の見通しについてどうやって切り出すのか? 本人の意思をどうやって確認するのか,本人の推定意思とは?

2回のロールプレイやグループワークを交えながら,そのプロセスを学びました.

学んだこと

今回の研修会は,冒頭での質問に対して正しいか・誤っているか,その答えを学ぶためのものではありませんでした.

 

例えば「人工呼吸器を外す」という行為を考えてみたときに,医師ひとりの独断での行為であれば問題となる可能性があります.一方で,本人の意思もしくは推定意思を尊重し,もしくは代理決定者の意見を取り入れ,複数の職種が関わる医療・ケアチームで相談した結果に基づいて行われた行為であれば,法的な問題は問われない可能性が高い(まだ,問われないとはいい切る自信がありません).

つまり,「人工呼吸器を外す」という行為が問題では無く,そこに至るまでのプロセスが大事であるということです.

 

終末期では約70%の患者で意思決定が不可能であるというデータがあります.よりよいエンド・オブ・ライフケア(EOL)のためには,患者,代理決定者,医療者が前もって患者の意向や大切なことを話し合うというプロセスが重要となります.

 

その手段が,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と呼ばれています.

 

「もしもの時は人工呼吸はつけないでください」「点滴はしてほしい」「胃瘻は希望しません」.このような終末期指示書を作製することをイメージするかもしれません.しかし,ACPとは最終的な指示書を作成し書面として残すことではなく,話し合いのプロセスを経ることで,患者の価値観を理解し共有することを目標としています.

 

ACPを行う時期,ACPを行うことの患者や家族,医療者の精神的負担や不利益,体調が刻々と変化していくなかで気持ちも変化していく可能性など.

ACPが万能で絶対的なものではないことは明らかですが,患者の意向を尊重した質の高いEOLを実践するためには,重要な手段であることは間違いありません.

 

ACPが普及するには,患者とその家族に近いバショにいる在宅医やかかりつけ医が,大きな役割を担って行く必要があります.状況に応じて繰り返し意思を確認することも必要ですし,それを他の関係者と共有できるようなシステムの構築が必要となるかもしれません.他にも,このような取り組みがあることを健康な住民に向けて啓蒙する必要もあるでしょう.まだ地域社会でACPを普及させるための活動の指針・教材等は出てきておりませんが,在宅医としてしっかりと取り組んでいかなければならない課題だと思います.

 

 

告知

2018年11月30日(金).大阪南医療センターで川島先生をお招きしてACPに関する講演会を行います.ACPは,緩和ケアをはじめとする終末期医療において,とてもホットでかつ重要な課題であります.是非この機会を利用して勉強していただくことをオススメします.皆様のご参加をお待ちしております.

 

2018年11月30日に,上記セミナーを開催しました.

そのときのまとめの記事です.

「人生会議」と命名.岸和田市民病院川島先生によるACP講演会 

まとめ

患者の意向を尊重した質の高いEOLを実践するためには,患者,代理決定者,医療者が前もって患者の意向や大切にしていることなどを話し合うというプロセスが重要となります

ACPが有効な手段となり,今後広く普及啓発していく必要があります.

 

最後になりましたが,研修会を開催していただいた木澤先生,川島先生,そしてファシリテーターの皆様,どうもありがとうございました.そして,グループワークをともにした済生会泉尾病院からの参加のお三方を含めた研修生の皆様,お疲れ様でした.

 

どうでもよいことですが,モデルとなったTさんは盆栽が趣味だったようです.

私,Tさんの盆栽は,綺麗に紅葉し始めています.